そのカヌーに出逢ったのは、ある夕暮れ時の事でした。ひっそりと静まりかえった入江に、一艘の大きなカヌーが繋がれていました。島で普段見かける丸木舟に較べるとかなり大きくて、不思議なかたちをしています。僕は何かに惹き付けられた様に、シャッターを切り始めました。ふと気付くとすぐそばで島の若者が二人、見つめています。彼等は僕にカヌーの生い立ちを話してくれました。そのカヌーは、クック諸島・ラロトンガ島で開かれる祭りの為に島の人々の手で建造されたものでした。ここアイツタキ島でも遠洋を航海する大型のカヌーを造らなくなって久しく、その技術は殆ど忘れ去られていました。カヌー造りはまず、島の巨木を伐る許しを神々に乞う事から始められました。忘れ去られた記憶を辿り数カ月を費やして、ようやく一艘のカヌーが完成しました。その祭りにはここアイツタキ島をはじめ、遠くハワイ、タヒチ等の島々から自分達の手で造ったカヌーでラロトンガ島を目指すという大規模なものです。その昔、遠い祖先がこの地にやって来た時と同じく、太陽と星と海流を頼りに大海原を渡って行くのです。高度な航海術と造船技術を持った遠い祖先から受け継いだ伝統と文化を見直す為に、自らの手で造り上げたカヌーで再び太平洋を渡ります。それは彼等自身の誇りをもう一度確認する旅でもあります。

 

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AITUTAKI / クック諸島・アイツタキ島
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