機内には耳馴れないロシア語のアナウンスが流れています。関西空港を12時に出発した空席だらけのウズベキスタン航空HY526便は、ウズベキスタンの首都タシケントに向けて飛行中です。二人のスチュアードが食事を配り始めました。例によって「チキンにしますか、それともビーフにしますか?」と僕に尋ねます。「ビーフはどんな料理ですか?」と聞き返すと、中身は開けて見ないとわからないというそっけない返事。そういえばメニューも何もなかったよなぁ、この飛行機。そう、このウズベキスタン航空は2週間前から日本に乗り入れを始めたばかりなのです。週一便なので、このフライトがまだ三回目。わずか10年前にソ連から独立した旧共産圏の国に、サービスを期待するのは無理なのかも知れません。別に無愛想なわけではなく素朴な暖かさは伝わってくるので、たぶんまだサービスの仕方がわかってないのでしょう。それにしても、スッチーはどこへいったんだろう?カーテンの向こうのビジネスクラスには結構きれいなスッチーがいたはずなのに、エコノミーだと女もつかないのかな??突然、機内映画が始まりました。アナウンスもプログラムもないので何の映画かわかりません。しばらく観ていると、どうやらシュワちゃんの映画のようです。音声は英語ですがロシア語の字幕が入っています。窓の外は土色の砂漠。同じ風景がもう1時間位続いています。関西空港を出発して約4時間、今モンゴルのゴビ砂漠の上空を飛行しています。砂漠といっても水が流れた跡が一面にあり、まるで干上がった巨大な川底のようです。永遠に続くかと思われた砂漠が尽きると、やがて雪を頂く山々が見えてきました。天山山脈です。6000m級の山々が連なる壮大な山脈です。まだ全面雪に覆われていて突然季節が冬に逆戻りしたようです。さすがに気流が悪く飛行機は少し揺れはじめました。かつてラクダの背に揺られ命がけで旅したシルクロードの上空を、21世紀の旅人はリクライニング・シートに座って映画を観ながら飛び越えてゆきます。その上スッチーがいないなんて文句いったら、バチが当たりますよね。関西空港を出発して8時間、人口230万を抱える首都タシケントの街並が今眼下に展がっています。たくさんの水路が街中を走っていて、その周囲だけ濃い緑に縁取りされています。ずっと砂漠を見続けてきた目には、豊かな緑がとても贅沢な物のように感じられます。現地時間16時30分、HY526便は静かにタシケント空港に着陸しました。だだっ広い空港に止まっているのは、空色のウズベキスタン航空の飛行機ばかりです。飛行機の外に出ると、ムワッと熱風が顔に吹き付けてきました。思ったより暑いなぁ。 |