らくだ新聞 第22回(最終回)
思い出


 

8時にスベータさんがホテルに迎えに来る事になっていたので、1時間程前にホテルに戻りました。預けておいた荷物を受け取りロビーで最後の荷造りし ていると、若い男の人が話掛けてきました。彼は大学の英語科の学生で、実際に英語を使う機会がないので勉強の為に話がしたいと言って色々話し掛けてきま す。このホテルのフロントマンの友達だと言っていますが、本当のところは分かりません。僕は大切な撮影済みのフィルムの整理をしていたので、半分上の空で 適当に相槌を打っていました。世間話が一通り終わったところで、彼が切り出した質問はやはり日本のビザについてでした。なんとかして外国人とのコネをつ くって、ビザを取りたいというのが彼の目的のようです。荷造りも終わり8時迄ヒマだったので、彼の質問に答えて日本人の平均収入や東京の高い家賃の話等、 日本の生活ついての話をしていました。フロントの壁にかかっている時計は8時15分を指しています。スベータさんは約束の8時を過ぎても現れません。とり あえず連絡先にTELしてみましたが、応答はありません。飛行機の出発時間は10時35分なので、8時半迄には空港に着かなければなりません。ここから空 港までは20分位かかるので、そろそろタイム・リミットです。僕は8時25分まで待ったのですが、それでもスベータさんが来ないので自分で空港に行く事に 決めました。タクシーが常時待っているようなホテルではないので、急いでタクシーを見付けなければなりません。丁度話し相手になっていた自称大学生に事情 を話して、手助けを頼みました。こういう時、ウズベキの人はとても親切です。すぐにタクシーを捜してきて、一緒に空港まで行ってくれる事になりました。良 い具合に道も空いていて8時45分には空港に無事到着。まさか最後で彼に助けて貰うことになるなんて、旅の出会いって本当に不思議ですね。彼には感謝を込 めて帰りの交通費を多めに手渡しました。カウンターも空いていてスムーズにチェック・インも終わり、パスポート・コントロールに向かいました。出国手続き を終えて出発ゲートに向かおうとすると、誰かが僕の名前を呼んでいます。振り返るとスベータさんが必死の形相で、パスポート・コントロールを突破して僕に 突進してきます。彼女は8時30分にホテルに着いたら僕が既に空港に向かったと知って、大慌てで追いかけて来たようです。彼女はこの不手際で今の職を失う 事を、ひどく心配している様子でした。僕は彼女のあまりの狼狽ぶりに、ウズベキスタンで仕事を得る事の困難さを実感しました。「ちっとも気にしてないか ら、大丈夫!クレームをつけたりしないから安心して。」、と必死になだめました。その言葉を聞いてようやく彼女も安心したようです。僕は僅かばかり残って いたスムを手渡し、「ありがとう。」と彼女の手を握りました。この日初めて見せた彼女の笑顔が、この旅の最後の想い出になりました。完[あとがき]旅の途 上で出逢った友というのは、とても不思議です。僅か数日共に過ごしただけで、昔からの友達のように親しく感じてしまうのは、やはり旅が持つ時間のマジック かもしれません。この旅で知り合ったM君とは、帰国後再会し旅の思い出話に花を咲かせました。地下鉄のホームを撮影しようとして連行された逸話などは、そ の時に聞いた話です。旅トモといえば[つちのこ新聞]のシンタローも、オーストラリアでダイビングのライセンスを取った時に知り合ったトモダチです。そう いえば、「つちのこ」はその後どうなったんだろう?らくだ新聞もいろいろ脱線しながらも、なんとか無事帰国する事が出来ました。長い間ご愛読ありがとうご ざいました。写真をご覧になりたい方は、ホームページの方にUPしてありますので、アクセスしてみて下さい。( www.studiomuy.com )僕は来月、又新たな旅に出ます。次の目的地は、ヒ・ミ・ツです。

[あとがき]
旅の途上で出逢った友というのは、とても不思議です。僅か数日共に過ごしただけで、昔からの友達のように親しく感じてしまうのは、やはり旅が持つ時間のマ ジックかもしれません。この旅で知り合ったM君とは、帰国後再会し旅の思い出話に花を咲かせました。地下鉄のホームを撮影しようとして連行された逸話など は、その時に聞いた話です。この旅から3カ月後、あのNYのテロが起きました。アフガニスタンの隣国のウズベキスタンも、大きな渦に巻き込まれてしまいま した。僕はアフガン空爆の映像をTVで見ながら、シャフリサブスに向かう峠から見たアフガニスタンに思いを馳せていました。権力を持つ者達のエゴや欲望の 犠牲になるのは、いつの世も声なき人々なのだと、、。

 
       
  らくだ新聞編集長 大塚佳男  
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