音楽のこだます谷で 第4回
グァテマラの虹

  陽が傾き夕暮れが迫ると、皆帰り支度を始めます。大きなトラックの荷台には、1台に50人位の人が荷物を持って乗り込みます。車の通れない山の中で暮らす人や、お金の払えない人は山道を歩いて帰って行きます。僕も山道を一人で車を走らせていて、大きな荷物を背負った人々に出会うと時々途中まで乗せてあげたりしていました。ある時10才位のまだ小さな少年が大きな薪を背負って山道を歩いていたので、村まで乗せてあげようと車を止めました。大きな荷物だったので車の荷台に載せるのを手伝おうとしたのですが、その荷物の重さに愕然としてしまいました。軽い親切心で少年を乗せたのですが、この少年が背負っている物の重さを実感してしまいました。通りがかりの気まぐれで1回位車に乗せてあげる事が、本当に親切なのかわからなくなってしまいました。まず一生車など買えない人に、車の便利さを覚えさせるような事をするは決して親切ではないような気がしてきたからです。それ以来僕は老人や病人など力の弱っている人を主に乗せるようにしています。市が終った翌朝、村はひっそりと静まり返っています。日当たりの良い民家の軒先では女性たちが織物をしています。グァテマラ織りは[いざり機(ばた)]と呼ばれる手織りで、反物の一端を柱等に固定しもう一端を自分の腰に当てて、正座して織る純粋な手織り物です。織り柄はかなり複雑なのですが、全て覚えているらしく何も見ずにどんどん織ってゆきます。アグアス・カリエンテスという村の織物は特に凝っていて、裏から見ても同じ柄に見える上、鳥や花をモチーフにした極めて複雑な物ですが、やはり下絵も何も無しに織っていました。僕はその芸術品のような織物がどうしても欲しくて、織っている人から直接買い求めました。彼女は織物を売って生計を立てているプロなのですが、その上着を一枚織るのに2~3カ月かかると言っていました。値段はUS$100(当時のレートで約1万3千円)でした。僕はこの時だけは全く値切らずに言い値で買いました。彼女がこの一枚を織り上げるのに費やす膨大な手間と、見事な芸術に敬意を表したかったからです。ある民家の前を通り掛かると一人の少女が、背中に子供を背負いながら織物をしていました。とてもいい感じだったので、僕は彼女の写真が撮りたくて声をかけてみることにしました。「オラ~(スペイン語でハローの事)」と話しかけると、優しい微笑みが返ってきました。僕は人の写真を撮らせてもらう時は、いつも自己紹介から始めます。僕のこちらでの名前は、[オスカル]。オオツカといくら言っても、こちらの人はオスカルと呼ぶので開き直って最近は自分からオスカルと名乗っています!自己紹介の次に自分が撮った写真を見せます。僕がどんな写真を撮っているか知ってもらうためで、いつもそのための写真を携帯しています。写真を見せると皆食い入るように見つめます。別に僕の写真が素晴らしいからではなく(笑い)、写真そのものを見る機会が少ないからです。毎日テレビや雑誌に囲まれて映像の氾濫する世界で暮らす私達には想像し難い事ですが、彼女達の暮らす世界では映像を見る機会はめったに無いのです。彼女たちが特に興味を示すのが、他の村の民族衣装です。何処の国でも女性はファッションに興味が有ると言うか、隣の村にさえ行ったことが無い彼女達は殆ど情報の無い世界で暮らしています。ですから同じ国内とは言え、遠く離れた村のファッションを見る機会はめったにありません。同じ写真を見せても、男性の反応は全然違います。彼らの興味は写真に写っている女性たちそのものです。面白いのは、僕が可愛いと思った少女がマヤの男性達の間でも一番人気だった事です。

 

 
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