ペンギン新聞 第10回
南極半島


 

ずいぶん長い間、水平線を見続けていたような気がします。操舵室の窓から見えるのは何処までも果てしなく続く海ばかり。出航してからまる3日間ずっと同じ風景が目の前に広がっていました。そんな水平線の彼方に何かぼんやりと白いものが見えてきました。雲の様にも見えますが、じっと目を凝らすとやはり島影のようです。「え?」「もしかして?!」僕はクルーより先に気付いて声をあげました。「あれ!、南極?」と興奮気味に尋ねると、デビット・ボウイに似た航海士はゆっくりと海図を確認し、「Yes」と、頷きました。順調に行けば出発してから三日目の夕方には到達する筈だったのですが、台風クラスの強い低気圧の襲来を受け、丸1日遅れて4日目の夕方ようやく南極大陸の先端に辿り着きました。ウシュワイアーの港を出航してからまる3日、成田を出発してからまる6日かかったことになります。
陸地が肉眼でもそれと分かるほど近づいてくると、今まで静かだった船内も俄かに活気づいてきました。この3日間一歩も部屋から出ずただひたすら船酔いと戦い続けていた人達も、皆デッキに出て次第に大きくなってくる真っ白い陸地に目を輝かせています。と突然、ざわめきが起こりました。クジラです!船の前方かなり遠くでクジラが潮を吹いています!それも1頭ではないようです。時折尻尾を見せては潜り、浮上して潮を吹く動作を繰り返しています。だんだん船が近づいてきても逃げる気配は全くありません。遂に船と数メートルのところまで近づいてしまいました。クジラの胴体の白い部分がエメラルドグリーンの海の中できらめいています。僕は心を震わせながらシャッターを押し続けました。
真っ白な山々に囲まれた静かな入り江には大小さまざまな氷山が浮かび、クジラ達がのんびりとブリージングをしています。時折、船の横をイルカのようにぴょんぴょん跳びはねながら群れをなして泳いでいる一群がいます。イルカにしては小さいなァ、と目を凝らすとなんと!ペンギンです!ペンギン達が三角形の編隊を組んで泳いでいます。何だかとても楽しそう。まるでワイワイ話をしながら泳いでるみたい。それにしてもすごいスピード。水族館でよたよた歩くペンギンしか見たことない僕が初めて目にする、凛々しいお姿。おみそれしました。あのヨタヨタは世を忍ぶ仮の姿だったんですネ。人は見かけによらないと言うけど、鳥も見かけによらない。平泳ぎしか出来ずスピードのない僕は、泳ぎの上手な人(鳥でも)につい一目置いちゃうんですよネ。やはり南極と言えば、ペンギン。そう、僕は君たちに逢いに来たのです!!

 
       
     
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