ペンギン新聞 第11回
上陸


 

いよいよ待ちに待った上陸が始まります。僕はこの日のために揃えたウェアーに身を固め、銀色に輝くブーツに足を固め、リュックに入れたカメラを両腕で抱え上陸用のゾディアック(エンジン付きゴムボート)に乗り込みました。あれほど荒れていた海は穏やかに静まり返り、僕達を乗せたゾディアックのエンジン音だけが山々にこだましています。時刻は既に午後7時を回り、少し薄暗くなりかけた南極大陸がもう目の前に迫っています。上陸地点あたりの海岸は雪が解け少し岩場が露出しているようです。「ん?」います、います!それも、ウジャウジャ!!遠くからでも沢山のペンギン達がいるのが、はっきり見えます。ここは南極半島の先端のペンギンのルッカリー(営巣地)で、主にゼンツーペンギンとアデリーペンギンのお宅です。お宅といってもこれは団地規模、それもかなり大きい高島平クラス。お邪魔する僕たちは1グループ10名程度がゾディアックに分乗して、順々に訪問する手筈になっています。突然の訪問にいったい彼らがどんな反応を示すのでしょうか?電話で予め訪問する旨伝えてある筈もなく、突然海からへんな乗り物でやってきた自分たちより大きめのペンギンにビックリするのでしょうか?
目指す海岸にゾディアックが着岸し、一人づつザブザブと波打際を歩いていよいよ上陸開始。突然の来客に驚いたペンギン達は一斉に警戒の叫び声をあげ騒ぎ出す、のかと思っていたらそんなことは全然なし。僕たちに気付いていない筈はないけど、ただひたすら自分たちの世界しか見えない様子。別に無視してる訳ではないようだけど、全く無関心。両手をパタパタとやりながら自分の家のメィンテナンスに没頭中。何をしてるかと言うと,石を積んで造ったマイホームの修理に隣の家の石をかっぱらって来るのに忙しく、他のことは目に入らないみたい。それが証拠に、隣に石を調達に行って留守の間に自分の家の石がその又隣の奴に盗まれてる!つまり石は所有権フリーのビニール傘のようにご近所をぐるぐる回ってるだけ。こいつら、一体何考えてるんだ?!海岸辺りに広がるペンギン団地の全景を撮影しようと、裏山の雪の斜面を上っていると丁度帰宅途中のペンギンと遭遇。ヨタヨタとザクザクの雪の斜面を降りているペンギン、これは笑える!まるで今日はじめてスキーをはいた初心者のように、おっかなびっくりゆっくり斜面を降りているのに、3歩進むと必ず滑って転ぶ。丁度スキーの階段登行の逆で、斜面に横向きに降りているのにズテッと毎回転ぶ。思わず「谷足に荷重しろ!」と声を掛けそうになってペンギンの足を見て初めて気付いたこの事実!!

 
       
     
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