らくだ新聞 第9回
夢の残骸


 

峠を越えサフリサーブスが近づくと、急に汗が吹き出してきました。盆地で気温が高い上に水が豊富で木々が生い茂っているため、湿度が少し高いようです。後で聞いたところこの日の気温は46度位あったようです。今から600年程前に現在のサマルカンドの街を建設したウズベキスタンの皇帝ティムールは、ここシャフリサーブスで1336年に生まれました。彼はこの地にアク・サライ(白い宮殿)という壮大な建築物を造りました。白い宮殿の「白」は「高貴な」という意味で、実際には金と青のタイルで装飾されていました。残念ながらその殆どは16世紀後半に時の権力者によって破壊され、現存するのは入り口の巨大なアーチの一部のみです。ティムールの造った最大の建造物も、今は崩れかけ剥げ落ち鳥達が巣を造っていました。建設と破壊を繰り返した騎馬遊牧民族の夢の残骸を見ると、いつの世も人の夢は果てしなくそして儚いものだとつくづく思います。権力者の夢の犠牲になった無数の名もなき人々を思えば、個人の夢を追える現在の方が幸せなのかもしれません。シャフリサーブスの街そのものは小規模で、一本のメインストリート沿いに見どころが集中していて、ゆっくり見ても半日で充分な大きさでした。帰りの道すがら運転手が今年の夏休みの計画を話してくれました。旧共産圏のウズベキスタでは外国旅行が大変難しく、特にビザを取るのがかなり困難なようです。ただし、ロシアや中国には逆にビザなしで行けるのだそうです。それで今年の夏は家族で中国のウルムチに遊びに行くと、嬉しそうに話してくれました。「飛行機で行くのですか?」と尋ねると、「いえ、汽車ですよ。」という答えが返ってきました。そう、中国もロシアもトルコもイランもパキスタンもインドも、全てこことは地続きなんですよね。往きに越えた峠を又越えてサマルカンドが近づくと空気が乾燥して気温もやや低く、爽やかに感じられます。現地の人の話ではこのあたりでは、サマルカンドが一番気候が良いのだそうです。ここが中央アシアの中心都市として繁栄したのは、過ごしやすい気候のせいもあるのかも知れません。サマルカンドには見どころが数多くあり、ティムール一族が眠る黄金の霊廟グリ・アミール廟をはじめ中央アジア最大の巨大モスク・ビビハニム・モスク、シャーヒズィンダ廟群などを巡り4日間の滞在は瞬く間に過ぎて行きました。

 
       
     
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